加地ちゃん先生の blog

加地ちゃん先生の、日々の活動について語りつくしていきます。

あの日、確かに僕らは光を追い求めていた。

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あの岬を回ればいつもの岩盤の壁だった。その隙間が逆ブイの字に割れていて、あいつは大概そこで、休んでいる。

断崖絶壁であるということは、その下の水深は相当あるということだった。昔、潜水士の免許を持った友人がアクアラングをつけて潜ったら、何本ものタックル(リール付きの釣竿)が沈んでいたのをみたという。Yダムに通い始めて30年近くにはなるから、その広いダムのほぼ全ての場所についての情報はを自ら集めていて、その事項は膨大な量になっている。

昨日降った雨が岩盤をどす黒く濡らしている。明けたばかりのあさの静寂のなかで、名前のわからない鳥の声が渓谷に響き渡る。夏の暑い時期にこの場所にくると、渓谷を上から吹き下ろす風が岩で冷やされてまるでエアコンの風のように気持ちいい流れになって僕らを包んでくれる。状況は悪く無い。水中には小さなベイトフィッシュの群れが見える。水の色も青黒いような深い緑色で、生命感にあふれている。

5.6ftの中古のプッシュウォーターに、ボロボロになったテラー3/8ozを繋いだ。トップウォーターなんて釣れる訳がないと言っている後輩を理解させてやるために、僕はいまここに来ている。後輩は、艇の後ろで「そんなもんじゃ釣れない」みたいな顔をして偉そうにしている。その概念も、数分後にはこの自然の中で新しいキオクに上描きされてしまうだろう。

Abuの2500cのクラッチを切って、親指でPEラインの表面を抑えている。キャスティングモーションに入ると、やや腰の抜けた中古のプッシュウォーターがその残された弾力を再度復活させて満月のようにしなっていく。ルアーのウェイトを限界まで感じる少し前で僕はロッドをゆっくりと前に振り切った。PEラインに染み込んだ水滴が一瞬のスプールの回転で霧のように吹き飛んで、逆ブイの字の寝ぐらにルアーが吸い込まれていく。

着水の少し前でサミングを弱く入れ、放物線を描くテラー3/8をゆっくりと減速させていく。

「ポト」という言葉がピッタリくるように、ルアーは静かに着水する。ハンドルを一瞬弾いてクラッチを元に戻してやると、ルアーと僕の間には「釣り糸」で結束された確実な関係が、静かに保たれていく。後輩も、さすがにその素晴らしい流れるような動作に見入っている。

ピクピク。

短いロッドアクションを二回入れると、首振り性能が限界まで極められているテラーはその動作を正確にトレースし、水面の上を美しく二回、スライドした。そこで、またポーズ。

「ガバッ!!」

水面は、割れた。

僕や後ろで後輩が騒いでいる。

「嘘じゃろ!!」

トップウォーターの釣りは、まさに「口から心臓が飛び出す」ほどにエキサイティングで美しくそして、感動的だ。今日のミッションは、こらで終わったと言っても良かった。

あのころ、僕らは大自然の中で、確かにこの世界が平和であることを実感していた。ルアーフィッシングに限らず、何をやっていたとしても、本気で取り組みスキルを極めていくことは、人が生きていく証とも言えるのかもしれない。

今日も良い日に。