加地ちゃん先生の blog

加地ちゃん先生の、日々の活動について語りつくしていきます。

9フィートのカヤックキールが、沈みかけた夕陽をバックにその紅を映した水面を切り裂きながら滑っていく。今日の釣果は全くダメだったが、この美しい景色を見る為に浮かんだのだと思えば納得できるくらいに美しかった。

ヒグラシの声を遠い山に聴きながら、陽が完全に落ちる前に水から上がろうとほんの少しだけ、気が焦る。真っ暗闇になると、何かと撤収にも手間がかかるからだ。

あと一つ岬を回ったら入水したポイントに着くというところ。なんとなく気になってルアーをキャストしてみる。Wダムは巨大な野池のようなダム湖で、ここ数年は釣り禁止になってしまったと聞くのでもう、その時の体験は誰にも、伝わらなくなってしまったのだろう。だからここに、書き記しておきたいと思った。

1オンスを越える大型のルアーを湖面の中心に向けてフルキャストした。少したるんだラインを巻き直しておきたいと言う意味もあった気がする。もちろん、魚なんて釣れるはずはなかった。しかし、彼らはそこに、大量に居たのだ。

大きな音と同時にルアーが「ドポン」と着水をする。普通に考えたらとてもではないが普通のアプローチではない。瞬間、周囲に夕立でも来たのかと思われるほどの巨大かつ広範囲のライズが起こる。全てバスだった。サバザハザバーッ!という感じで、恐怖さえ感じる。地震でもおきたのかと錯覚しそうになる。しかも、ほとんどが40upくらすの大型のものの水音だった。

「何が起こったのだ」

瞬間に理解ができない。まるで海でトビウオの群れの中に浮かんだみたいな感覚。しかし、ライズは数秒で終わる。

もう一度キャストする。今度は少し違う角度でさっき通った場所あたりだ。フルキャストなので30mは飛んでいる。また大きな音で着水。また巨大なライズ。水面が泡立っているくらいの大量かつ広範囲のライズだった。

しかし、ルアーに反応してくれる魚は一人として居ない。何か、別のベクトルに意識が向いているようだ。彼らは一体、ここで何をしているのか。。

そんなやりとりが数十分続く。かなりしつこい自分だった。今日の惨憺たる釣果に華でも添えられればと言う思いもあったのかもしれない。

結局そのうちライズは終わってしまい、そのまま真っ暗闇の中でカヤックを撤収をした。

時に山間部の大型の、特に野池のような形、水深のダムでは不思議な出来事に出くわすことが多い。50メートル以上離れたワンドの奥で、まるで子犬が水面に落ちたのかというような巨大な水音が立って驚いたこともある。流れ込みを観察していると、どう見ても70オーバークラスの個体に出会ったこともある。

彼らは今、釣り禁止になったダム湖のなかで、平穏な日々を過ごしているはずだ。釣りが出来なくなった事に酷く落胆はしていない。僕らはバスが好きなのだ。絶対に、水を抜いてしまわれるような事が起きないことを願うばかりだ。何十年にもわたって世代を継いで来た彼らの生活を、今はそっと見守っていたい。あの頃の想い出はもう、消えることのない僕らの心の中の一ページとして、静かにしおりを挟んで綴じておきたい。またいつか、語り継ぐその日が来るその時まで。