加地ちゃん先生の blog

加地ちゃん先生の、日々の活動について語りつくしていきます。

「あの陽の、願いの中で」

f:id:LAPIN1791:20190712072414p:plain

釣り場で仲良しになったMちゃんは、これまでの人生の中で最も最強な釣り人だった。

いつものWダムの上流に夕まずめに降りた。ここはいわゆる「藪漕ぎ」をしながら頑張って降りていかないと釣りができない反面、季節と時間帯、ルアーを間違えなければ圧倒的な爆発力を秘めた、ポイントだった。

Mちゃんはアブの5,000番あたりをソリッドグラスのクラシカルなタックルにまとめてとてもスッキリしていた。僕がその時、メジャークラフトの7ftの川用竿にアブの2500番をのせていたから共感したものがあったのかもしれない。

上流は水位の増減が激しく、まるで渓流のような様相だ。流れは速いし水深はどうみても1メートル以下だ。水中に大きなごろた石がゴロゴロと点在している。もちろん、巻物なんて使えないから必然的にトップウォーターオンリーの攻めになる。アプローチが非常に限定された釣り場だった。

Mちゃんは突然話しかけてきた。

「釣れてますか~^_^」

よくある、釣り場での決めセリフだ。

「いえ、まだなんですよ。新しい竿買ったのでテスト兼ねて遊びにきたんです^ - ^」

そんなやりとり。

「どんなルアー使ってるんですか」と、僕。

「これなんですよ」と、Mちゃん。

「なんですか!?これは」

みたこともない、変な形の(失礼)ルアーだ。ポッパーの特性を五倍くらい強化したような形だった。

結論から言うと、この日を境に僕のトップウォーター理論が大きく変わることになる。人生とは、本当に面白い。

「待っててください、今釣ってみせますから」

Mちゃんは言う。

「えっ!?釣るって、いまここでですか?」

バスという魚は、釣ろうと言ってもすぐに釣れるような魚ではない(と、思っていた)。

この人は何を言っているのだろうか。

「いえいえ、釣れますよ。しかも50アップです」

この人、完全に変だわ。変な人に絡んじゃったなぁ。その時は、そう思ったのだった。しかしその一分後にして僕の概念は崩壊していく。

「みててください」

Mちゃんはその、巨大なシイタケのような形をしたトップウォータールアーをキャストする。川幅は20メートルくらいだが、なぜかMちゃんは川のちょうどど真ん中あたりに、そのシイタケを着水させた。

あぁ、あんなど真ん中に投げて、釣れるわけないのになぁ。僕は心でつぶやく。バスという魚は障害物の陰に、常に隠れているものなのだ。

Mちゃんがキャストしたルアーが川のど真ん中にポカンと浮いている。

「いきますよ」

Mちゃんが言う。

Mちゃんは、ロッドをゆっくりと、しかし深いトルクをかけて思い切り引き切る。満月のようにソリッドグラスのロッドがしなって、ポカンと浮かんでいるルアーが突然、大きな水音を立てる。「ゴバァ〜!!!!」もちろん、魚が釣れた音ではない。ルアーの周囲1メートルくらいが大きな波紋と引き波に包まれる。

あぁ、あんなデカイ音を立てて、終わったなぁ。

僕は心でつぶやく。まだ陽の高いうちにあんな音を立てては魚の警戒心を煽るだけなのだ(と、思っていた)。

Mちゃんは静止した。静止している。ルアーも、Mちゃんの動きをトレースするように静止して、引き起こった波紋の中に「ピタリ」と、止まって浮かんでいる。。

30秒くらいした時だ。突然Mちゃんはシイタケを操作して華麗な首振りを加えた、1,2,3。ピクピクピクッ。そんな形容詞がピッタリくるような短いワンアクション。その瞬間、奇跡(ではなかった)が起こる。

「ドッパァ〜ン!!!」

ついに水面が割れた。バスが出たのだ。しかも、デカい。

「うそじゃろ」

今度は先日の日記の中で後輩が発したセリフを僕が言う番になった。いや、本当に目の前で起こっている事実が受け入れられないのだ。

Mちゃんは、宣告通り、ピタリと五十センチのブラックバスを目の前で釣り上げてしまったのだ。「ハハハ、わかっていたんですけど、またやってしまいました」Mちゃんは何事もなかったように言い放っている。僕の方がドキドキしている。。。

その後、その場所で散々Mちゃんに今やったことを詳しく解説してもらった。つまり、初めの波紋はバスのバイトを模擬したアクションで、そのあとでしばらくのポーズは、ミスバイトで魚から逃れることができて呆然としているエサをイメージ。そのわずかあとで、やっと我に帰ったエサがアタフタと逃げ出そうとしているシーンを演出させ、その次に側からそれを見ていた「本物」のバスに口を使わせたのだと。もはやそれは、ひとつの芸術の形としか思えなかった。

結局、そのときMちゃんが使っていたルアーを僕も手に入れることになる。そのあとで、いろんな場所でそのパターンでいい思いをさせてもらった。ストックさんのプチ大会第6回で優勝したのもその時のパターンだった。

インターネットや本などの文字情報を越えた、実体験による新しい体験はエキサイティングで常にドラマに満ちている。Mちゃんとはもう、五年も連絡がつかないのだけれど、今もどこかのダム湖できっと、Mちゃんは元気に魚たちと遊んでいるはずだ。

写真は、若い頃に削って塗装したオリジナルルアー。ハードウッド製。Mちゃんの持っていたルアーに、偶然ソックリだった。