「あの日の光、キツネの嫁入り」
あの頃の色や音や、風や光が、網膜の奥からそのキオクを蘇らせてくれる。
今日初めて「カメラ」を触った彼の眼がキラキラと輝いている。その光が窓の外から漏れてくる遮光カーテンの隙間から、見える景色と融合していく。
カメラの古い、新しいは、実はそんなに写真の良し悪しに影響はしないと感じていて、古くても「良い」ものはどんどんその良さをアピールし、伝えていくようにしている。大きくて、重たくて、全身金属製だから、人気のなかったというGXRが、僕のカメラバッグから卒業していった。
新しい主人を迎えたカメラは、どことなく嬉しそうでいてすこし、寂しそうにもみえた。
僕は府中家具のおじいさんのように心の中で、「大事に、してもらいなよ」という。物にも命や感情があると思っている。大事にしてあげればあげるほど、奇跡を起こしてくれる道具たち。
僕はまた今日、一つの別れと引き換えに、新しいフォトグラファーを尾道で送り出すことができた。